” 好き ”のつづき
──2月14日。
笹波はいつになくそわそわしていた。その理由は鞄の中に入っているチョコレートだ。
(今は友チョコって文化もあるし、自然に渡せばいいんだ)
笹波は、同じサッカー部で友人の木曽路兵太に片思いをしていた。ずっと秘めていた思いを伝えるべくバレンタインに乗じてチョコレートを用意したのだった。
(何度もシミュレーションしたんだ、大丈夫。大丈夫。僕ならできる)
そう自分にいい聞かせて部室の扉を開ける。するとそこには予想していない人物の姿があった。
「え、雲明……ッ!?」
「木曽路……? まだいないと思ったのに」
中には制服姿の木曽路がいた。
サッカー部員である木曽路が部室にいること自体はなんら問題はない。しかしまだ朝練がはじまるまで1時間ほどある。
キャプテンで監督の笹波はやることが多いため、普段からこのくらいに来ているが、木曽路はどちらかというとギリギリにくる方だ。
(まさかこの時間に木曽路が来てるなんて……!)
笹波は予想外の事態に固まる。一方の木曽路もなにかをしようとしていた最中で、笹波の登場に驚いていた。
「っ、はよー、雲明。お前、来んの早くね〜?」
「……え、僕はいつも通りなんだけど。木曽路こそ何してるの?」
木曽路が今いる場所。
それは笹波が使っているロッカーの前だった。そして手にしているものを笹波から隠すように持っていた。
(……これはもしかして自惚れてもいいのか?)
脳裏に浮かぶ1つの可能性に笹波の心臓の鼓動は高鳴る。それを鎮めるため、はーっと深呼吸をする。
「木曽路が言わないなら、当てようか?」
「えっ」
「それバレンタインでしょ。僕宛ての」
「へあっ!?」
「……違う?」
笹波がそう問いかけると、観念したのか小さな声で「雲明宛てのチョコです」と言って、隠し持っていたものを笹波に差し出す。
「……なんか言えよ」
「木曽路が素直に言ってくれて嬉しいなって思ってるだけだよ」
「だってお前、言わなかったら言うまで聞くだろ……」
恥ずかしさからか顔を真っ赤にしてそっぽを向く木曽路。そんな木曽路の頭を笹波はぽんと撫でる。
「素直な木曽路に僕からもプレゼントだよ」
「へ?」
「……僕も、木曽路にバレンタインチョコ用意したんだ」
「……。えええっ!!?」
「そんなに驚くこと?」
「だ、だって──ッ」
「ほら、早く受け取ってよ」
笹波が差し出したのは、シンプルな包装紙に包まれた小さな箱だった。
木曽路は震える手で受け取り、「本当に俺でいいの?」と呟く。
「……木曽路のそういうところ、よくないと思うんだけど」
「ゔ」
「僕は木曽路だからあげたいんだよ。それをほかでもない木曽路が否定しないでほしい」
「雲明」
木曽路は大きく息を吸い込むと、一瞬の躊躇いのあと、まっすぐ笹波を見つめた。
「それは、俺のこと、好きって意味で受け入れていいの?」
「そうだよ」
「……そっか。嬉しい」
木曽路は手にした箱をぎゅっと抱きしめてふにゃりと笑う。それにつられて笹波も笑みを浮かべる。
「俺も、雲明のこと好きだよ」
「うん」
木曽路の言葉に、笹波はさらに優しく微笑む。しばらく二人は無言で見つめ合う。
「……」
「……」
「う、雲明さん?」
「何?」
「なんか、距離、近くないですか……?」
「なんで敬語なの」
「いや、だって」
「木曽路は嫌なの?」
「…………嫌じゃ、ない」
今にも消えそうなくらい小さな声で木曽路は返事をする。
笹波がゆっくりと木曽路の頬に触れる。木曽路は一瞬ビクリとするが逃げることはしなかった。
あと少しで、互いの吐息が触れそうになった、そのときだった。
ガラッ。
「おっはよー!」
勢いよく開いた扉に、二人は弾かれるように離れる。
そのまま扉の方を見るとそこには空宮と桜咲の姿があった。
「……ん?」
空宮は首をかしげると、笹波と木曽路の顔を交互に見る。
「なんか二人とも顔、赤くない?」
「え、そ、そう、かな……?」
「気のせいじゃないっすかね、はは」
空宮の指摘に笹波と木曽路はお互いから目を逸らしながらそうごまかす。
「まだ寒ぃし風邪とか気をつけろよ」
「わかってますよ」
「はーい」
そう言って桜咲は自身のロッカーのもとに向かう。空宮は心配そうに笹波を見るも、「元気だから」という一声にそれ以上の追及をやめた。
「それならいいけどさあ」
「ほら、早く練習したいからもう来たんでしょ? 支度しなよ」
「お、おう……」
「木曽路も。ぼーっとしてないで早く着替えたら?」
「お、おう」
そう言われて木曽路も自分のロッカーへ向かう。
そうしている間に続々とほかの部員たちも集まり、部室は賑やかになっていた。
支度を終えた人から順にグラウンドに向かっていく。
「おーい。木曽路、遅いぞ」
「いま、行きます!」
桜咲に呼ばれ、木曽路は駆け足気味にグラウンドに向かおうとする。
「木曽路」
「ん?」
笹波に呼び止められ、振り向く。
「雲明?」
「……放課後に、続き、しよっか」
笹波は誰にも聞こえないよう木曽路の耳元でそう囁いた。
「!」
木曽路の顔が、みるみるうちに赤くなる。
けれど、すぐに小さく笑って、「……うん」と答える。
「じゃあ、まずは朝練頑張ろっか」
「え~お手柔らかに頼むぜ~」
二人は笑いあいながらグラウンドへと向かった。