世界への招待
「……フィディオ、もっかい言ってくれない?」
「一緒にイタリアに来てよ、シンイチ」
突拍子もないことを言うイタリアの有名人に、俺は頭を抱える。
目の前のイタリア人の名前はフィディオ・アルデナ。イタリアのサッカーチーム【オルフェウス】の副キャプテン様だ。
実は、俺──半田真一とは、いとこ関係にある。俺の母親がイタリア人で父親が日本人。まあ俺は父親似なので、ハーフだとはほとんど気づかれないけれど。
同い年ではあるが、フィディオのほうが少し誕生日があとなので、フィディオのことは弟みたいなもんだと思ってる。
俺の反応がないからか、フィディオはもう一度同じ言葉を繰り返した。
「ねえシンイチ、一緒にイタリアに来なよ。きっと楽しいよ」
「聞こえてる。行かない」
俺の返答に不満なのか、フィディオは「ええー」と唇をとがらせる。
「シンイチと一緒にサッカーしたい! だめ?」
「あのなあ、お前と俺じゃ実力差がありすぎる。現実みろ」
吐き捨てるように俺はフィディオに返す。自分で言ってなんだがぐさりとメンタルにきた。
「俺はシンイチのサッカー好きだけどなあ」
「そりゃどーも。でも現実見ろっての」
「……まあ安心して! それなら俺たちがシンイチのこと鍛えてあげるから!」
「うぇえ」
フィディオの言葉に俺は顔をしかめた。
俺は小学3年生くらいまでイタリアで暮らしていた。当時はフィディオと共に地域のサッカークラブに所属していたのだが、すでに才能を開花しつつある彼は自他ともに厳しかった。幼馴染のマルコと二人で何度地獄をみたことか……。しかも”オレたち”ときた。オルフェウス総出で俺を殺す気か。
「実はちょっと困ってるんだ。キャプテンは相変わらずだし、何人かは他のやりたいことがあるみたいだからさ」
「……まさか、俺にイタリア代表になれってことか?」
「そういうこと!」
ニコニコと答えるフィディオに、俺はこめかみをおさえた。
「あのなあ、代表ってそんな簡単に選ばれるもんじゃねえの。わかる? フィディオ」
そもそも俺はFFI日本代表に選ばれなかった。そんな自分がイタリア代表とかありえない。
「あのさ、シンイチ」
「なに」
「シンイチ、サッカーのこと大好きだよね」
「……そりゃあ、好き、だけど」
確かにサッカーのことは好きだ。──でも俺はサッカーを裏切った。自分の中でエイリア石を手に取り、ダークエンペラーズとなったことは、今でも重く心にのしかかっている。そんな自分がこれからもサッカーを続けていいのだろうか。
俺が黙っていると、フィディオは明るい声で言った。
「なら問題ないさ! 好きなら大丈夫!」
まるで太陽のような笑顔に、俺は目を細めた。昔からこいつのまっすぐさは変わらないな、とあきれ半分に思った。
「一緒に世界に行こうよ!」
そう言ってフィディオは俺に手を差し出した。