それなら探しにいこうよ

 ──正直、食事なんて生命維持以外の意味なんてないと思っている。
 そこに美味しいも不味いもなくて、ただただ口に運んで消費するものだと、今までは思っていた。

「真名部くんってそれ好きなの?」
「? ……どういうことですか?」
「うーん。その返答は少し予想外だったよ」

 人間観察が趣味だという彼、皆帆くんの反応に、僕──真名部陣一郎は眉を顰める。

「キミがそれを食べるとき他の食べ物より顔が柔らかいから好きなのかなーって思ったんだけど、違うのかい?」
「……食べ物なんて、食べれればなんだって構いません。そこに好き嫌いなんて──……」

 ない。
 今までならそう言い切れたはずなのに。

 アースイレブンに入ってから自分の感情が自分でもよくわからずにいた。

「好きとか嫌いとかってよくわからないです。気にしたことなかったので」
「そっか。なら、これから知っていけばいいんじゃない?」
「ん……っ、いきなり何するんですか!」
「あは。うん、やっぱり真名部くんはそういう表情の方が面白いね」

 皆帆くんはケラケラ笑いながら僕の口に食べ物を与え続ける。探究心に火がついた彼に反抗を諦めた僕は彼に与えられるがまま食べ続ける。

「皆帆くん、真名部くん。何してるの?」
「瞬木くん。キミもこのあと暇かい?」
「えっ。まあ、特に予定はないけど」
「それなら一緒に買い物にいかない? 真名部くんの好きなもの探し」
「……え、なに。どういうこと」
「面白そう。ねえ、私もついていっていい?」

 困惑する瞬木くんと面白そうと話題に食いつく野咲さん。騒がしい様子にキャプテンや鉄角くんたちも集まってくる。

「大歓迎だよ。ね、真名部くん」
「え、えぇ」
「ねぇ、私あそこのお店行きたい! 有名って聞いたから気になってたの!」
「いいよ。行こう。他のみんなは行きたいところあるかい?」

 いつの間にか規模が大きくなっていることに僕は困惑する。野咲さんを中心に話はまとまったようで各々一度準備のため解散していた。

「よし。行くところも決まったし、今日はじっくり観察させてもらうよ、真名部くん」
「……はあ。ほどほどにしてくださいよ?」

 不安と期待が半分半分──いや、期待のほうがわずかにだが勝っていた。それを皆帆くんに伝えたらめんどくさいことになりそうなので、僕の心の中に隠しておこう。