秘めたる想い、晒します

 静かな談話室で笹波はひとり、今日の京前嵐山戦を振り返っていた。

「雲明」

 笹波は名前を呼ばれ顔をあげる。声がした方を見ると、そこには今日の試合で大役を果たした木曽路の姿があった。

「木曽路」
「あ、あのさ。今時間ある?」

 何か緊張した面持ちの木曽路に笹波もなんだか緊張がうつる。それを悟られないように「大丈夫だよ」と笹波が返すと、木曽路はほっとしたように表情を少し緩めた。

「場所、どっか移動する?」
「ううん、ここで大丈夫」

 木曽路はそう返事をすると、笹波の隣に座る。

「雲明。俺のこと信じてくれてありがとう」
「……」
「俺、本当に不安で投げ出したくなったりもしてさ」
「うん」
「なんで雲明が俺を選んでくれたのか、説明してくれたけど、それすら信じられなかったんだ、正直」
「そっか」
「なんだったらプレッシャーで押しつぶされそうだった。──だけど、」

 木曽路は一度言葉を区切る。

「桜咲先輩が言ってくれたんだ。"みんなの中にお前はいるのか"って。それでやっと気付いたんだ」
「……」
「おかげで俺、俺自身を信じられた。桜咲先輩の言葉もだけど、なによりずっと雲明が信じてくれたから──だから、ありがとう」

 木曽路はそう言って笑う。笹波もそれに釣られる形で笑みを浮かべる。

「俺、それで、雲明に伝えたいことがあるんだ」

 一拍の沈黙の後、木曽路はなにか覚悟を決めたように笹波のほうを見る。

「俺、雲明のこと好きなんだ」
「え」
「友達としてじゃなくて、恋愛感情で」
「……」

 木曽路の告白に笹波は驚く。その反応を拒絶だと思った木曽路は「ごめん」と謝る。

「あの」
「本当は伝える気なかったんだ。だけど、俺もう全部さらけだすって決めたから」
「まって」
「迷惑だよな。結局は俺の自己満足だもん」
「木曽路! ちょっと落ち着いて!!」
「雲明……?」
「僕の話も聞いて」

 笹波はそう言って、じっと木曽路を見つめる。

「木曽路の気持ち、とても嬉しいよ。僕も、木曽路のこと好きだから」
「……え?」

 笹波の言葉に木曽路の目が驚いたように見開かれる。

「う、雲明。今、その冗談はきついって~」
「冗談じゃない」
「……っ」
「さらけだすって言ったのは誰? 木曽路の本音は?」
「……」
「ほ・ん・ね・は?」
「……雲明も同じ気持ちだっていうならすごく、うれしいです」
「上出来」
「ほ、ほんとに、雲明も俺のこと好きなの?」
「好きだよ。大好き」
「そっか」

 木曽路はぽつりとつぶやくと、ぎこちなく笑う。その瞳には涙があった。

「雲明も同じ気持ちって思ってなかったから……なんか夢みたい」
「夢じゃないよ」
「なあ、雲明はなんで俺のこと好きなの?」
「……言わなきゃだめ?」

 笹波はここまでの積極さが嘘のように、恥ずかしいのか視線を逸らす。

「聞きたい」
「……迷ってるとき、僕ならできるって後押ししてくれたから。あれ、すごく嬉しかった」
「そっか」
「あと最初はうざかったけど、今は木曽路がいないとさみしいし」
「!」
「満足した?」
「うん」

 木曽路は目元を指で拭って、照れ隠しみたいに笑う。

「…………次は、木曽路ね。なんで僕のこと好きなの?」
「え、そ、それは……」
「教えてよ」
「~~~~~~っ!! 恥ずかしいから無理! 今は秘密!」
「わかった。じゃあいつかは聞かせてね」
「お、おう」

 木曽路は顔を赤くして、笹波から目をそらす。

「そろそろ、部屋戻ろうか」
「ごめん邪魔しちゃったよな」
「ううん、大丈夫」

 談話室の時計はもう夜の11時を示していた。
 二人は談話室を後にし、それぞれの部屋に戻ろうとする。

「おやすみ、木曽路。また明日」
「あ、雲明」
「なに──?」

 ちゅっ。

 ほんの一瞬。頬に何かが触れる。

「っ!?」
「じゃあおやすみ!」

 木曽路はそう言い残してさっさと自分の部屋に戻る。
 廊下に一人残された笹波は、そっと自分の頬に触れた。

(……あれはずるいよ、木曽路)

一度、七章後に告白する話をかきたいなーと思って考えていたもの。
タイトルはUTENA様よりお借りしました。