手袋越しのクリスマス
「……はあ」
──12月24日。
木曽路たち南雲原サッカー部は、日ごろミーティングで使っている野球部棟の1室でクリスマスパーティーをしていた。
部室に飾られたクリスマスの装飾と、誰かが持ってきたらしいクリスマスツリー。
机いっぱいに置かれたクリスマスケーキとチキン。
部室には笑い声がこだましていて盛り上がっている。
楽しい。
楽しい、はずなのに。
木曽路の心は、その賑やかさから少しだけ取り残されていた。
視線の先には、南雲原サッカー部を日本一に導いたキャプテンで監督の笹波の姿がある。
笹波は、空宮や桜咲となにやら盛り上がっている様子だ。
(……一応、俺たちって付き合ってるん、だよな?)
木曽路と笹波は一か月ほど前から恋人関係にある。
もちろんサッカー部の仲間と過ごすのが嫌なわけではない。
だけど、今日は恋人になってから初めてのクリスマス・イブなのだ。
「雲明のばか」
木曽路は小さくそう呟いて、手にしていたグラスを口に運ぶ。
笹波を見ているのも辛くなり、そっと視線を逸らす。
「よっ、木曽路。楽しんでるか?」
「柳生先輩……」
声をかけられたほうを見ると、手にケーキを乗せた皿を持つ柳生の姿があった。
心配をかけまいと木曽路はすっかり癖になってしまっている作り笑いを浮かべる。しかしそれはすぐ柳生にバレる。
「あー……あれか」
そして柳生はすぐに原因も察して「うちのキャプテン様はモテモテだよなー」と苦笑する。
「ねー。ほんっと困っちゃいますよ」
「で? お前はさみしいんだろ」
「……悪いっすか」
「んなこと言ってないだろ」
「ちゃんとクリパは楽しいんですよ、でも──」
そう言って再び木曽路は笹波たちがいるほうへ視線をやる。
少しして、木曽路の視界の端で、柳生が遠くにいる誰かと目を合わせた。
その誰か──忍原は、柳生の意図を察するとグッと親指を立てた。
「ね~もう飲み物なくなっちゃうんだけど?」
「ほんとだね」
「それなら買い出しに行こうか」
忍原の発言をきっかけに、そんなやり取りが自然に交わされる。
「おーじゃあ、買い出し行くかーってことで、人手足んねぇから桜咲たちも来いよ」
「おー」
「雲明はどうする?」
「えっと」
「あー。ボスはそこでおとなしく待ってろ」
笹波の返答を遮るように柳生が口をはさむ。
柳生の言葉に続くように忍原たちも「雲明は残って片付けお願いできる?」「木曽路くんも一緒によろしくね」と口々に言う。
「あ、はい」
「せ、せんぱい……!?」
木曽路は状況を飲み込めずに瞬きをする。
その間にも買い出しに行く忍原たちは上着を羽織って部屋を後にする。
そして最後に柳生が、意味ありげに一度だけ木曽路を見てから、にっと笑った。
「じゃあ、留守番よろしくな」
そう言い残して、がちゃりと扉が閉まった。
(や、柳生先輩も忍原先輩も絶対わざと二人きりにしたよな……!?)
閉まった扉を見つめたまま、木曽路はしばらく動けずにいた。
さっきまであれだけ賑やかだった室内が、嘘みたいに静かになった。
そしてその沈黙を破ったのは笹波だった。
「まったく急になんなんですかね、先輩たち」
「う、雲明」
「まるでわざと僕たちを二人きりにしたような気がするんだけど、どう思う?」
「あ、えーっと」
どう答えればいいのかわからず、木曽路は言葉を濁す。
「木曽路?」
「……だって、雲明が先輩たちと仲良くしてるから」
思わず口をついて出た言葉に、木曽路自身が一番驚いた。
「え」
「あ、えっと、ごめん。今の仲良くすんなって意味じゃなくて、その」
「もしかして嫉妬してた?」
「……」
笹波の問いかけに静かに木曽路はうなずく。
「部でのクリパも楽しいけど、……恋人同士だから雲明と一緒に過ごしたかったのに。なのに雲明ってばずーっと桜咲先輩と空宮先輩としゃべってるから話しかけれなかったんだよ」
一度本音を口にすると止まらなかった。
「雲明のばか。俺のほう見てよ」
「……」
「さみしかった」
「木曽路」
「……なに?」
「ごめん」
笹波は短くそう言って、一度視線を落とした。
「本当は、僕も一緒にいたかった」
「え」
「……だけど、」
笹波の言葉を木曽路は待つ。少し間が空いてから笹波は困ったように「どうしたらいいかわからなくなったんだ」と続けた。
「恋人同士でって思ったら、急にドキドキしてきちゃって」
「もしかして、それで桜咲先輩たちといたのか?」
「う、うん」
笹波の本音に、木曽路は力が抜けたようにその場に座り込む。
「お前ってそういうとこかわいいよな、ずるい」
「え、急に何?」
「別に」
「……木曽路がさみしくなってるんだったら、ちゃんと言えばよかったね」
「あー、でもそれは俺もだし」
そう言って木曽路が苦笑すると、笹波は一瞬だけ迷うような顔をしたあと、意を決したように口を開いた。
「木曽路、目をつむって」
「え」
「いいから」
「あ、はい」
笹波に言われるがまま木曽路は目をつむる。
木曽路が目をつむったのを確認すると、笹波はそっと一歩近づいた。
近づいたかと思うと、木曽路の手を掴む。
「……う、雲明さん? なにして」
「まだ、目開けないで」
「はい」
笹波はどこからか手袋を取り出すと、木曽路の指を包むように、ゆっくりと通していく。
「もういいよ」
「えー、お前なにした……の……?」
木曽路が恐る恐る目を開けると、自分の手に淡い色の手袋がはめられているのが見えた。
「手袋?」
「この前、なくしたって言ってたから」
「あ、そういえば……」
「これ、僕のと色違いなんだよね」
「……!」
笹波の発言に、木曽路は一瞬、言葉が出てこなくなった。
「……渡せてよかった」
「ありがとう、うれしい」
木曽路は、手袋をはめられた手をぎゅっと握る。
「大事にする」
「今度はなくさないでよ」
「うん、なくさない」
そう言って木曽路は、手袋越しに笹波の手をそっと掴む。少しだけ、力を込めて。
「……雲明」
「なに?」
木曽路が笹波の名前を優しく呼ぶ。
次の瞬間、そっと唇が重なった。
「っ」
一瞬だけの軽いキス。
すぐに離れた木曽路の耳は、わずかに赤く染まっていた。
「お、俺からの、プレゼントーなんちって……」
「木曽路──」
笹波が何かを言おうとしたその時だった。
がちゃがちゃ、と扉の向こうで音がした。
「お待たせー! いろいろ帰ってきたよ~!」
「部屋あったかい……」
買い出しを終えた忍原たちがぞろぞろと室内に戻ってくる。
とっさに笹波と木曽路は距離をとる。
「木曽路」
「柳生先輩」
「なんかいいことあったのか?」
柳生の言葉に木曽路はニッと笑ってこう返した。
「……ゴソーゾーにお任せします!」
兄弟っぽい感じで柳生&木曽路ペア好きなのでそこもかけて満足