あなたに想いを伝えたい

 今のままでよかった。
 今のまま“友達”として大好きな彼女の側にいれれば。

 ──無意識にそう思い込んで、本音に蓋をしていたのかもしれない、と気付かされたのは猫屋敷さんの言葉だった。

 その言葉に、自分の口から出た答えは「嫌だ」だった。

 彼女──犬飼さんの側にいるのは自分がいい。それが僕がずっと見てみぬふりをしていた願いだ。
 だけど犬飼さんを困らせたくないことも自分にとっては大事で。きっと犬飼さんにとって自分は友達の1人でしかないだろうから。

 それでも、犬飼さんの笑顔を守りたいから。
 だから彼女に頼って貰える自分でいたい。
 そしていつか、自分に自信ができたら気持ちを伝えよう。

 結局、まだまだ臆病な自分はあの場で気持ちを伝えられなくて。だけど“今まで”が続くと内心安心していた。──あの瞬間までは。

「いろは様に好きと告白するのかと」

 メェメェの言葉にみんな凍りつく。僕は恐る恐る目の前の犬飼さんを盗み見る。そこで自分の瞳に映る犬飼さんは初めて見た犬飼さんだった。

 このままじゃよくないと震える声で彼女の名前を呼ぶ。

「あ、えっと、……ばいばい!!」

 困惑したような、驚いたような。
 彼女からあまり聞かない声色で、僕はやってしまったと気づいた。

 ──こんな風に困らせたくなかったから、関係を維持することを選んだのに。
 猫屋敷さんやメェメェが遠くで何かを言っているのが聞こえるが、僕の耳にはそれが入って来なかった。



 その後、どうやって帰宅したかは覚えていない。気がついたら家についていた。

 部屋で座り込む僕を大福が心配そうに近寄ってくる。

「悟、お前それでいいのか?」
「えっ、大福!?」
「自分から伝えてないのに諦めていいのか」
「はは、大福はもう喋れないのに……。なんでだろ、大福の声が聞こえるよ」

 僕を励ますように大福がポンポンと膝を叩く。

「そう、だよね。ちゃんと自分の気持ちを伝えないと」

 ──あなたの声を聞かせて。
 彼女もいつもそう言っているんだから。
 自分の気持ちは自分で伝えなければ。

 大福の励ましに勇気をもらった僕は震える手で電話をする。

「もしもし、犬飼さん? ──今からちょっとだけ、時間貰えないかな?」