あなたに想いを伝えたい
今のままでよかった。
今のまま“友達”として大好きな彼女の側にいれれば。
──無意識にそう思い込んで、本音に蓋をしていたのかもしれない、と気付かされたのは猫屋敷さんの言葉だった。
その言葉に、自分の口から出た答えは「嫌だ」だった。
彼女──犬飼さんの側にいるのは自分がいい。それが僕がずっと見てみぬふりをしていた願いだ。
だけど犬飼さんを困らせたくないことも自分にとっては大事で。きっと犬飼さんにとって自分は友達の1人でしかないだろうから。
それでも、犬飼さんの笑顔を守りたいから。
だから彼女に頼って貰える自分でいたい。
そしていつか、自分に自信ができたら気持ちを伝えよう。
結局、まだまだ臆病な自分はあの場で気持ちを伝えられなくて。だけど“今まで”が続くと内心安心していた。──あの瞬間までは。
「いろは様に好きと告白するのかと」
メェメェの言葉にみんな凍りつく。僕は恐る恐る目の前の犬飼さんを盗み見る。そこで自分の瞳に映る犬飼さんは初めて見た犬飼さんだった。
このままじゃよくないと震える声で彼女の名前を呼ぶ。
「あ、えっと、……ばいばい!!」
困惑したような、驚いたような。
彼女からあまり聞かない声色で、僕はやってしまったと気づいた。
──こんな風に困らせたくなかったから、関係を維持することを選んだのに。
猫屋敷さんやメェメェが遠くで何かを言っているのが聞こえるが、僕の耳にはそれが入って来なかった。
☆
その後、どうやって帰宅したかは覚えていない。気がついたら家についていた。
部屋で座り込む僕を大福が心配そうに近寄ってくる。
「悟、お前それでいいのか?」
「えっ、大福!?」
「自分から伝えてないのに諦めていいのか」
「はは、大福はもう喋れないのに……。なんでだろ、大福の声が聞こえるよ」
僕を励ますように大福がポンポンと膝を叩く。
「そう、だよね。ちゃんと自分の気持ちを伝えないと」
──あなたの声を聞かせて。
彼女もいつもそう言っているんだから。
自分の気持ちは自分で伝えなければ。
大福の励ましに勇気をもらった僕は震える手で電話をする。
「もしもし、犬飼さん? ──今からちょっとだけ、時間貰えないかな?」