Twins Harmony
「…………は?」
双子の弟であるロビンの突拍子のない行動には慣れてるつもりだった。しかし目の前の出来事が理解できず、ジャックは混乱していた。
「ヴァイオリン買ってきたよ!」
「…………なんで?」
「兄さんの演奏が聞きたいから」
ニコニコと笑いながらロビンは答える。そんなロビンの言葉に昔ヴァイオリン弾いたことあったなと、ジャックは思い出す。しかしそれも自分もロビンもまだ幼い子供で人間だったころの話だ。
「あのさぁ、もう何年も弾いてないんだけど」
「大丈夫! 兄さんなら弾けるよ」
「お前なあ」
何も疑いもせず自分へ期待を向けるロビンが眩しい。ジャックは目を細め呆れたようにため息をつく。
昔からコイツはそうだ。自分に対して真っ直ぐで曇りがない。ジャックはロビンのそんなところが大好きで、大嫌いだった。
「じゃあさ、お前もピアノ弾けよ」
「へ?」
「僕のヴァイオリンとお前のピアノでセッション。それだったら、弾いてやらないことも……「やるっ!!」
ジャックの提案を聞き終わる前にロビンは被せるように返事をした。その瞳はキラキラと輝いていた。
「なんの曲にする? 歌うわけじゃないから僕たちの曲じゃなくても演奏できるかな? ねぇねぇ! 兄さんはなにがいい?」
矢継ぎ早に質問を投げかけるロビン。ジャックは圧倒されながらも「まだやるとは言ってない!」と声を荒げる。
ロビンはそんなジャックの態度など気にしていないのか、いつも通りニコニコしていた。
「あ〜っ、兄さんとのセッション楽しみだなあ。僕もピアノ練習しないと!」
「……聞いてないじゃん」
はしゃぐロビンにジャックは諦めたように呟く。しかし口元は僅かに笑っていた。なんだかんだ言ってジャックもロビンと一緒に音楽を奏でることが楽しみなのだ。
「ロビン」
「ん?」
「曲。あれがいい。ママたちも好きだったやつ」
「え」
「……なんだよ、嫌なの?」
「ううん、嫌じゃない! でも、兄さんの口からそれが出てくるなんて思ってなかったから」
ロビンはそう複雑そうに笑う。その表情の意味を理解しているジャックは何も言わなかった。
「あ。もうそろそろ大学行かなきゃ」
「うん」
名残り惜しそうにロビンはジャックの頬を撫でる。
「また明日ね。兄さん」
「……ああ、また明日」
ロビンを見送り、一人になった部屋の中でジャックは再びヴァイオリンを手に取った。
「……」
弦の上に弓を乗せる。久しぶりに触れた楽器なのに、不思議と手に馴染む気がした。