体温

「兄さんっ!」

 ふと抱きついてきた弟の体温が冷たいことに気づき、僕は改めてロビンが自分と同じようにヴァンパイアになったことを実感した。

 ヴァンパイアになる時に心臓は結晶化する。その影響でゆるやかにだが体温は人間だった頃よりも低くなっていく。ロビンはまだヴァンパイアになったばかりだが、自分が知っているロビンの体温よりも確実に低くなっていた。

「お前はいちいち抱きつくな! 鬱陶しいんだよ」
「え〜っ! 今までの分を取り返してるだけだよ」

 無邪気にそう言ったロビンの口には小さいながらも人間にはない牙がちらりと見える。

(本来ならこいつは光の世界で神様に愛されながら歌っていれたはずなのに)

 ロビンをヴァンパイアにしたことを後悔していないはずだ。ロビンが僕と一緒にいることを望んで、僕がそれを受け入れてヴァンパイアにしたんだから。──本当に?

 僕が、ロビンが死ぬのが嫌で、ロビンが自分を忘れるのが嫌で、だからロビンをヴァンパイアにしたのかもしれない。

「兄さん?」

 黙り込んだ僕を、心配そうにロビンが覗き込む。その瞳は宝石のように紅く輝いていた。

「……」
「兄さん。勘違いだったらごめん。僕をヴァンパイアにしたの後悔してる?」
「……いや」

 ロビンの言葉を否定する声が少し掠れた。ロビンはそんな僕を見て、悲しそうに微笑んで「そっか」と返した。

「ごめんね」
「なんで謝ってるんだよ」
「だって。僕のせいで兄さんは罰を受けたから。……痛かったよね」

 そう言ってロビンは僕の結晶化した心臓のあたりを優しく撫でる。その手つきは慈愛にみちたものだった。

「わかってた。罰を受けるって」
「うん」
「わかった上で、お前をヴァンパイアにしたんだ」
「なんで」

 ロビンの手の上に自分の手を重ねながらそう僕は返す。そして重ねていた手を離すと、そのまま指先を絡めるように握り直した。

「……そのくらい、察しろよ」

 素直に本音を口にするのは恥ずかしくてぶっきらぼうに答えた。しかしロビンは怒ることなく、嬉しそうに笑って「うん」と返事をした。

「兄さん、ありがとう」
「ん」
「大好きだよ」
「知ってる」

 ロビンがぎゅっと手を握り返す。それに答えるように僕も繋いだ手に力を込める。

 ──その手はやっぱり冷たかった。

ジャックはロビンをヴァンパイアにしたことを後悔はしなかったけど、時々ロビンなら光の世界でやっていけたのに…と悩んでほしい。