聖なる夜にふたり

 トウキョウ・ハラジュク。
 静かな冬の夜空に、1人の天使が空を舞っていた。

 天使は背中に生えた純白の羽を羽ばたかせ、楽しそうに歌を紡いでいた。その天使の正体はロビン・ラフィットである。

 大好きな兄のサンタクロースになるべく、やっと自由に飛行できるようになった羽で兄が暮らす家へ向かっていたのだ。

(今年はすっごく寒いっていうし……これならきっと身につけてくれるよね)

 ロビンが用意したのはジャックのイメージカラーである緑を基調とした防寒具セットだ。しかも兄を想像させる黒うさぎの刺繍つきだ。

 その他にはジャックの大好きなお菓子の詰め合わせも用意している。日本でのお気に入りのものだけでなく、イギリスで大好きだったお菓子も用意した。

 会えなかった数年を思えばまだまだ贈り足りないが、これからはずっと一緒だし、機会はある……とロビンは気持ちを切り替える。

 気がつくと目的地の近くに来ていたようで、ロビンは一度深呼吸をする。

(……兄さんに気づかれないようにしなきゃ)

 事前に同居人の1人であるエリザベスにはこのことを伝えている。そのときに教えてもらった魔法でそおっと、鍵を開ける。カチャリと音がし、魔法が成功したことに安堵する。そのままロビンは慎重に部屋の中に入った。

(よかった、兄さん寝てるみたい)

 ちらりとベッドを見ると寝息を立てて眠るジャックの姿があり、ロビンは安心する。

 音を立てないように静かにベッドに近づいて、枕元にそっとプレゼントを置く。用意しすぎたせいか枕元に置ききれない分は、部屋にあるソファに置く。

「Merry Xmas。兄さん」

 ロビンはそう囁きながら眠るジャックの額にキスをする。ミッション達成に満足したロビンは軽い足取りで部屋を後にしようとした、その時だった。

「なにしてんの?」
「えっ」

 強い力で引っ張られ、ロビンはジャックが眠るベッドの方にぽふん、と倒れ込む。ロビンは視線だけ動かすと、そこには目を醒ましたジャックの姿があった。

「……うわ、なにこの量。お前が用意したの」
「に、兄さん。いつから起きて──」
「お前の気配うるさいんだよ。すぐ気づいた」
「ご、ごめん」

 しゅんとするロビンに、ジャックは「まあいいけど」と返し枕元のプレゼントの1つを手に取る。

「あ、これ」
「懐かしいよね。これ兄さんが好きだったから用意したんだ」
「ねえ、お前も食べない?」
「でもこれ兄さんへのプレゼントなんだけど」
「こんな量、ぜーんぶ僕が食べたらミストに怒られるだろ。だからあげたお前も連帯責任で食えよ」

 ロビンにはそれがジャックの不器用な気遣いであることを悟る。そういう優しさを持つ兄だからロビンは好きなのだ。

「うんっ」
「あとついでにもう渡しとく。Merry Xmas、ロビン」
「兄さんありがとう!! 大好き」
「あーはいはい」

 ロビンはジャックからのプレゼントに喜び、ジャックに抱きつく。そんなロビンにジャックは呆れつつも優しく頭を撫でた。



「ジャック。まだ寝てるんですか? もうとっくに朝食用意できて──ああ」

 次の日。
 なかなか起きてこないジャックを起こすべく部屋を訪ねる。そこに広がる光景にミストは思わず笑みが溢れる。

「仕方ありませんね。しばらくは寝かせてあげましょう」

 ベッドで2人くっついて眠るジャックとロビンを起こさないように、ミストはそっと布団をかけ直した。