僕だけに聞かせて

「悪いわね、急に頼んじゃって」
「別にいーよ。今日は特に予定なかったし」

 ルージュリアンの作業部屋で、エリザベスとジャックは衣装の製作をしていた。
 エリザベスはもちろんのこと、ジャックも時々製作を手伝っているので、慣れた手つきで作業を進めていた。

「それにしても珍しいね、ベスがこんなに溜め込むなんて」

 部屋に大量に積まれた布を見ながらジャックは言った。

「急な依頼なの。事情が事情だったから引き受けたけど……まあその分、お代はいただくわ」
「トーゼンだよ!」

 二人は口を動かしつつも手を休めない。

 しばらく二人が作業に没頭していると、ふとどこからかピアノの音色が聞こえてきた。
 方角的にO★Zのメンバーが住む家だったので、最初はギルティアが弾いてるのだろうと考えた。

「? ……あら、この音、ギルじゃないわね」
「へぇ。ギルティアじゃないなら、誰が弾いてるんだ……ろ……、」

 ジャックの目が点になる。そして、彼は思わず呟いた。

「ロビン」

 ジャックは勢い良く立ち上がると、そのまま部屋の窓を開けて外を見る。そして「げ」と小さく呟く。

「あら、ロビンだったのね。さっきのピアノ」

 エリザベスも立ち上がってジャックの横に立つ。外からは、ピアノの音と共に透き通るように綺麗なーーまさに天使の歌声が聞こえてくるではないか。

 何か言いたげに口をパクパクしながらジャックは、音楽が聞こえる方を睨む。

「あいつ……」

 ジャックの顔がみるみる赤くなっていく。そんな彼を見て、エリザベスはくすりと笑った。

「あの子、無意識にプリズン展開してるわね」
「……」
「それにしてもあなたたち、いつの間にお付き合いを始めたの? ベス、知らなかったわ」
「……」

 ジャックは何も答えない。だが、彼の顔色はますます赤くなるばかりである。

「聞いてるこっちが恥ずかしくなるくらいね」
「…………僕だって恥ずかしいんだけど……っ」

 ジャックは顔を赤くしたまま、震える声でエリザベスに返事をする。

 離れたところにいるはずのロビンの歌声が届いていた。それは、ロビンが無意識に発動しているプリズンが原因だ。

 それでも、ただの歌なら問題はない。

 しかし"ヴァンパイアは偽りを歌にできない"。
 ーーつまり、ロビンのジャックへの愛100%の歌が、響きわたっているのだ。

 少なくともハラジュクにいるヴァンパイアたちにはこの歌は確実に届いているであろう。

「愛されてるわね、ジャック」
「……うっさい」

 ジャックはそっぽを向いてしまった。どうやら相当照れ臭いらしい。

「てか、あいつなんなわけ。なんで僕以外にそういう感情みせるんだよ。ありえない。」

 不満げにジャックは呟く。
 そんなジャックを見てエリザベスは苦笑いした。

(なんだかんだで、ジャックもあの子に対して独占欲強いわよね)

「それだけあなたのことを想ってくれてるってことでしょ」
「……そうだけどさぁ……」

 ヴァンパイアの性とはいえ、ジャックはロビンの行動にまだ納得いかない様子でいた。

「……ねぇ、ベス。ちょっと、ロビンのところに行ってもいい?」

 しばらくして、ジャックがようやく口を開いた。「えぇ、もちろんいいけれど」とエリザベスは答える。するとジャックはロビンに電話をし、今から会う約束を取り付けた。

「……ったく。やっぱりあいつプリズン出してた意識ないみたい」

 少し経ってから、ジャックはため息混じりに言った。

「ちょっと帰り遅くなるかも。戻ってきたらちゃんと手伝うから!」
「わかったわ。でもあまり遅すぎないようにね」
「うん!」

 ジャックは窓に足をかけ、「じゃ!」と言うと、背中に羽を生やし飛び立っていった。

「……ロビン、頑張りなさい……」

 このあとロビンの身に起こる出来事を思い浮かべながらエリザベスは激励を送った。ジャックの姿が見えなくなったのを確認すると、エリザベス再び作業に戻った。