気づいた途端にぎくしゃく、ぎくしゃく
兄さんを見ると胸がぎゅっとなることに気づいた。最初は再会した喜びを噛み締めているのだと思ったけれど、再会して1ヶ月経っても胸がぎゅってなるのは変わらなかった。それどころか兄さんがアイツやアンジュと仲良くしてるだけで、気分が落ち込むようになった。
「なんなんだろ、これ」
僕は1人ベッドの上で独りごちる。イギリスから持ってきた兄さんとお揃いのテディベアを抱きしめても、モヤモヤした気持ちは収まらなかった。
ヴァンパイアになった影響もあるのかな、なんて思ってエリザベスさんにやんわり聞いてみたけど、「あなたそれ本気で言ってるの?」って冷たく返された。……ひどいや。
理由がわからないのもなんだか嫌だから、スマートフォンで原因を調べることにした。すると予想もしてなかった結果が出てきた。
「えっ」
その検索結果には「恋」と表示されていた。その結果に僕は混乱する。だって、兄さんは兄弟で。ヴァンパイアとしては親子で。兄さんのことは大好きだ。だけどあくまで兄弟愛だと思っていたのに。僕はまだ結果を受け止めきれず、ページを読み進める。
「恋をしてるかもしれない要素……。え、これも、これも当てはまる」
サイト上に書かれている「無意識に相手を見てしまう」や「ふとしたときに相手のことを考えてしまう」「他の人と話してるとむっとしてしまう」などといったものは、まさに今の僕にピッタリのものだった。
スマートフォンを持ったまま呆然としていると、手元のスマートフォンが震える。落としそうになったそれをどうにか手に取り画面を確認すると、兄さんからの電話のようだった。
「も、もしもし……?」
「遅い」
慌てて電話に出ると不機嫌そうな兄さんの返事が返って来た。そんな兄さんもかわいいな。
「兄さんから電話だなんて、今日はなんてハッピーなんだろう!」
「……今日は、ってもう今夜だよ?」
「そんなの関係ないよ。僕にとって兄さんは大切なんだから」
「あーはいはい」
「ところで兄さんはなんで電話してきたの?」
僕が聞くと兄さんは答え辛いのか「あー……」と言葉を濁す。
「兄さん?」
「…………元気そうでよかった」
絞り出すように告げられた言葉に、僕は首を傾げる。
「うん? 僕はいつも通りだけど……何かあったの?」
「別に、ないならいいんだけどさ。その……」
「?」
言い淀んでいる様子の兄さんの言葉を待つために黙っていると、数秒後にようやく口を開いた。
「……もやもやしたやつ、飛んできたから」
「へ?」
言われたことが理解できず聞き返すと、少し大きな声で同じことを言われる。
「だから! お前からもやもやしたもの飛んできたんだよ!!」
「……なんか、ごめん」
僕にはよくわからないけど、ヴァンパイアとしては僕の親になる兄さんには、時々僕の感情みたいなものが伝わるらしい。
「まあ。何もないならよかった」
ぶっきらぼうに言う兄さんの声音からは心配してくれていたことがわかる。僕はそれが嬉しくてつい笑ってしまった。
「ふふ。ありがとう兄さん! だ──」
大好き。そう言おうと口を開けた瞬間、急に先程のことを思い出す『恋』という言葉が頭の中でぐるぐる回る。急に黙った僕を不審に思ったのか、兄さんが呼びかけてくる。
「ロビン?」
「あ、なんでもない! 兄さん、おやすみ! いい夢を!」
兄さんの返事も聞かずに、勢いのまま通話を切る。そのままスマートフォンを投げ捨てると、ぼふんっとベッドの上に倒れ込んだ。
「……う、あ〜〜っっ」
枕に顔を埋めたまま足をバタつかせて悶える。結晶化したはずの心臓もドキドキしている。
もう僕は、兄さんに恋していることを自覚してしまった。
「これから兄さんにどんな顔して合えばいいんだろ」
僕の悩みは静かな部屋の中に溶けていった。