ロビンとイヴの話

 ぱたん、と扉の閉まった音でロビンは目を醒ます。

(……イヴさんかな?)

 ロビンは頭にイヴの姿を浮かべながら階段を降りる。降りた先には予想通り、勤めを終えローブを着たままのイヴの姿があった。

「おかえりなさい、イヴさん」
「ロビン。ごめんね、起こしちゃったかな?」
「大丈夫だよ! ところで今日はいつもより遅かったね。怪我してない?」

 ロビンはそう言ってイヴに駆け寄り触れようとする。しかしそれはイヴに寄って払われる。驚くロビンにイヴは申し訳なさそうに目をそらし、「ごめん」と謝る。

「……ちょっと疲れてるんだ。だから今日はもう休ませてもらうね。おやすみ、ロビン」

 イヴはそれだけ言うと足早に自室へと戻ろうとする。しかしロビンは「待って!」と声を上げ、イヴの腕を掴む。先程と違いそれは払われなかった。

「……」
「イヴさん何か隠してるよね」
「何も、ないよ」
「僕、今のイヴさんのこと放っておけないよ」
「ロビン」
「ねえっ、……僕じゃ頼りない?」
「……っ」

 涙目になりながらも必死に訴えかけるロビンを見て、イヴはロビンを抱きしめた。

「ごめん、ロビン」
「イヴさん……」
「僕はやっぱり怖いんだ。アンジュやロビンがいくら否定したって、いつか、やっぱり獣になってしまうんじゃないかって」
「そんなことないよ!」
「でも僕はこうして獣になろうとしている。だって現にーー……」

 悲痛な叫び声を上げるイヴ。
 ーーその瞳は紅く染まっていた。

 その様子を見てロビンは息を呑む。そして決意する。

(今はどんな手を使っても……)

「イヴさん」

 ロビンはそう呼びかけると、パジャマのボタンを1つ2つと外していく。その行動でロビンが何をしようとしているのか気づいたイヴはロビンを止めようとする。

「ダメだ、ロビン!!」
「ねぇ。僕のこと吸っていいよ」
「……ぃ、嫌だ。そんなことできない」
「大丈夫だよ。絶対に、イヴさんは獣になんかならない。だってイヴさんが優しい人だって僕知ってるから」

 天使のような微笑みを浮かべながらロビンはじっとイヴを見る。それに観念したかのようにイヴはそっとロビンの首筋へ顔を近づけていく。

「ごめん」

 そうイヴは謝罪をすると、そのまま首元へ牙を突き立てた。

「……っぁ、もー。そこは、ありがとうでいいのに」

 困ったように笑いながらもどこか嬉しそうな表情を浮かべるロビン。そのままそっとイヴの頭を撫でる。

「……ん、きもちいい。寝ちゃいそう……」

 眠気に襲われたロビンはゆっくりと瞼を閉じる。声もどこかふわふわしていた。ロビンのそんな様子を見てイヴは吸血をやめる。

「ロビン、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
「なんであんなことしたんだ。何もなかったからよかったけど、もしーー」
「だって、こうすれば……イヴさんの不安を和らげられるかなって思ったんだもん」
「っ……」

 ロビンの言葉を聞いてイヴの目からはぽろりと雫が落ちてくる。それを見たロビンは優しく笑う。

「ねぇ、イヴさん」
「ロビン?」
「もしまた怖くなったら教えてね。僕がイヴさんが寂しくないように一緒にいるからさ」
「……っ、ろびん」

 イヴの声には嗚咽が含まれていた。それに答えるかのようにロビンも泣き始める。

(もっとイヴさんは、イヴさん自身を信じてほしいな。イヴさんには優しい心がちゃんとあるんだって)

 とうとう眠気に抗えなくなったロビンは眠りに落ちる。崩れ落ちそうになったロビンをイヴは抱きとめる。

「ありがとう、ロビン」

 イヴはすっかり寝てしまったロビンを、ロビンの部屋まで運ぶ。

「おやすみなさい」

 ロビンの額にキスを落とすと、ロビンの部屋をあとにした。