イギリス紳士とロストエデン
「は?」
サガは目の前にいる人物の言ったことが理解できずーーいや、理解したくなくて聞き返す。
「ひ孫に会わせなさい」
「なんの話だ」
「キミの息子のジャックくん、子を作ったんだろ? つまり私にとってはひ孫にあたる」
「…………ジャックの話、どこから聞いたんだ」
「それは秘密だよ」
のらりくらりと交わす自身の親にサガはため息をつく。追求したところで言う気がないのは目に見えている。サガは諦めることにした。
「そもそもお前は親不孝だよ。孫にすらろくに会わせてくれないし」
「…………ミストなら会ってるだろ」
彼に呼ばれてサガがイギリスに行く際、時折ミストもついてきているため、彼の言う孫の1人には会っているはずだ。
「私はジャックくんにも会いたいのだよ」
相手にするのも面倒くさくなりサガは身支度を整え始める。LOS†EDENのライブも日が近いのに急に呼び出したかと思えばそれかよ、とサガは呆れていた。
彼には色々と世話になったがそれ以上に面倒ごとも押し付けられてきた。今回は断ればよかった、などと考えながらこの部屋から出ようとするといつのまにか身支度を整えた彼がそこにいた。
「だから私もお前と一緒にジャパンに行くことにするよ」
「……」
「もうお前の隣の席を手配したから逃げさないよ」
「…………」
「まだ時間はあるからね。皆にお土産を買わないとね。サガ、付き合ってくれるだろ?」
有無を言わさない圧に、サガは「…………ああ」と絞り出すように答えた。
☆☆☆
『急で悪い。夕飯一人分追加頼む』
異国の地にいるサガからのメール。
ミストは内容を見てサガにお疲れ様です、と念を送る。これは二人にも早々に伝えるべきだと判断すると、ミストは二人に声をかけるべく、ソファの方を見る。
「ジャック、エリザベス」
「なに?」
「なーに?」
ジャックはゲームをしながら、エリザベスは作業したまま返事をする。
「……サガがどうやらあの方と一緒に帰国されるそうです」
「げ、まじ? 僕、O★Zのとこ避難していい?」
「あら、ジャックは嫌なの?」
「だってアイツずーっと僕のこと観察するんだよ!? 怖いって!」
嫌そうな顔をするジャックにエリザベスは不思議そうにする。「ベスは好きよ、あの人」と言うエリザベスの反応に、ジャックはそれが理解できないのかさらに顔を歪ませる。
「大体何しに来るわけ」
「どうやら私たちに会いに来るようです」
「……あいつが帰ってたら教えて」
ジャックはそう言って荷物を取りに自室へ向かおうとする。しかしメールを覗きこんだエリザベスが「やめたほうがいいわよ」と返した。
「彼、ひ孫にも会いたいそうよ」
「…………まさか」
「ロビンのことね。ジャックの子だからあの人からしたらひ孫になるわ」
「なんであいつ僕とロビンのこと知ってるわけ!? こっわー」
「諦めることですね、ジャック。今から追加の買い物行くので二人とも着いてきてもらえますか」
「いいわよ」
すぐに了承するエリザベスに対し、嫌々「……はぁーい」と返すジャック。
少しでも彼が早くイギリスに帰ってくれることをジャックは願った。