誓いの痕
とある日のルージュリアン。
そこにはいつも通りエリザベスの手伝いをするジャックと、そのジャックと約束をしていて遊びに来たロビンの姿があった。ルージュリアンの主であるエリザベスは仮眠を取るために席を外していた。
「結婚かあ」
ロビンはぽつり、と呟く。
彼の目の前にはエリザベスが依頼で作っているウェディングドレスがあった。
「なに? お前、結婚したいわけ?」
「んー……そういうわけじゃないけど。結婚式ってキラキラして好きなんだよね」
うっとりとするロビンにジャックはそっけなく返事を返す。そんなジャックの様子を特に気にせず、ロビンは話を続ける。
「こないだイギリスにいる友達の結婚式お呼ばれしたの。天使の歌声でお祝いしてほしいって」
「はぁ!? お前、聖歌とか歌ったのかよ」
「うん。そのために行ったんだから当然だろ」
ものすごく慌てるジャックをロビンは不思議そうに見る。そして頬に優しく触れる。
「お前、なんともないわけ? 心臓とか痛くないの?」
「うん、なんともないよ。今も、歌ってたときも」
「……なんともないならいいや」
ジャックは安心したように息をつく。そして、その表情を隠すためなのかロビンの手を払って背を向ける。
(ヴァンパイアは偽りを歌にできない。自分の思いしか歌えないはずなのに。さすが神様に愛された子ってことか)
ジャックは心の中で思う。ヴァンパイアになっても相変わらずキラキラと輝き、周りを魅了するロビンに苦笑を浮かべた。
「それこそ兄さんはどうなの。結婚願望。あるの?」
「僕?」
「うん」
興味津々といった様子で聞いてくるロビンにジャックはため息を吐く。
「ないよ」
「そっか」
「というか、僕サガと結婚してるようなもんだし」
「へ」
慌てふためくロビンにジャックはニヤリと笑う。そして首元を広げ証をみせる。首元にはLOS†EDENの仲間の証である十字架があった。
「仲間になるときにサガの血吸ったし、おうちも一緒だから結婚してるって言ってもいいよね?」
ロビンをからかいながらニコニコしているジャックに対し、ロビンはぷくぅっと頬を膨らませる。
「そ、それなら僕だってアンジュと結婚してるもん!!!」
「ならもうこの話は終わりでいいだろ」
「よくない!! …………あ」
何かを思いついたのかロビンは急におとなしくなる。そんなロビンにジャックは警戒心をあらわにする。
「兄さん」
「な、なんだよ」
「左手を出して」
「……やだ」
「出して」
有無を言わせない口調で言うロビンにジャックは渋々と手を差し出す。するとロビンはその手を掴んで薬指を口に含んだ。そしてそこに牙を刺した。
「ッ」
「ん……これでよし」
満足げに微笑むロビンとは対照的にジャックは訝しげに自分の薬指を見る。そこにはくっきりとロビンの牙の跡が残っていた。
「結婚指輪かわりだよ、兄さん。消えたらまたつけてあげるね」
「……」
「あ、そうだ。兄さんも僕につけてほしいなあ」
甘えるような声でお願いするロビンに、ジャックの顔がひきつる。しかし、そんなジャックの様子など気にも止めず、ロビンはにっこりと笑っていた。
「あら。あなたたちまだいたの?」
「エリザベスさん!」
「せっかくだしお茶でもどうかしら。ベスのおすすめの茶葉があるのだけど……」
「いいの!? いただきます!」
仮眠から覚めたエリザベスの誘いにロビンは笑顔で答える。手伝うことあるー? と、ロビンはエリザベスの元に駆け寄る。
「っ!?」
自分の横を通り過ぎたロビンの姿をジャックは目を見開いて見つめていた。
「またあとでねっ、兄さん」
そう通り過ぎ様に囁いたロビン。
ジャックは自分の手に刻まれた跡を見る。
「ジャック?」
不思議そうにこちらを見るエリザベスになんでもないと返し、ジャックも2人のもとへと向かった。