引き金
放課後。部活が終わり、ほとんどの部員たちが帰った後も松野と半田は部室に残っていた。
「ねぇ、半田」
「なんだよ。今、お前に構ってる暇ないんだけど」
「……ちょっとでいいから話聞いてくれない?」
「……」
松野のお願いに半田は日誌を書く手を止める。その様子を確認してから松野は口を開いた。
「半田、最近無理しすぎじゃない? 宍戸たちも心配してたよ」
松野の指摘に半田は刺々しく「そんなことないけど」と返す。松野はそんな半田の反応も想定内だったのでそのまま話を続けた。
「……まだ、あの夢見てるの?」
「……」
「ねえ」
「なんで」
「え?」
「なんで、お前じゃないんだろうな」
松野と半田の視線が交わる。怒りを含んだ半田の声に松野は思わず動揺した。
「……お前も思ってるんだろ、俺じゃ代理キャプテン務まらないって」
「そんな話してないよ。ちょっと落ち着いてよ、半田」
「落ち着いてる」
「落ち着いてないから言ってんの」
「……」
「半田一人でサッカー部やってるんじゃないんだし、代理キャプテンだからってそんなに背負い込まなくても──半田?」
様子のおかしい半田に松野は戸惑う。うつむいた半田が肩を震わせているのに気付いたからだ。
「おれ、にはサッカーする資格なんてない」
「は?」
「だけど、せめて任されたことは、ちゃんとし、な、……っ」
「ちょっと、半田!? ねぇ、しっかりしてよ!!」
突然倒れ込んだ半田に松野は取り乱して叫ぶ。意識を失う前の半田が最後に見たのは、松野の真っ青な顔だった。