00

 暗い部屋の中で僕は、窓の外を呆然と見る。
 さっきまでそこにいた悪魔アイツは紅色の光になって、月へと向かうかのように空へと還っていく。

「ぼく、は──」

 歌いたかっただけなのに。
 自分の口から出たその声はあまりにもか細いものだった。

 あのままだと僕は弟の影でしかない。
 だから神様に祈るのをやめた。

 願いを叶える、そういった悪魔アイツのことを信じて手を取ったのに。アイツは呆気なく目の前から消え去った。

「……」

 首筋を撫でると噛まれた痕があり、たしかに自分は【悪魔ヴァンパイア】になったのだと実感する。

 それは、自分が望んで選択した結果のはずなのに僕の心は晴れずにいた。