03

 あれからさらに月日が経過した。
 あの日以降、テレビはもう見ていない。これ以上、知りたくないからだ。

 僕は一度だけこの屋敷から出たことがある。
 ロビンを殺そうと思った。昔と変わらず楽しそうに歌う弟が許せなくて、消そうと思った。化け物となった自分にはそうする力くらいはあるだろうと思った。

 奇跡的に誰にも見つからずロビンの部屋までたどり着くことができた。安心して寝ている姿は昔と変わらずあどけなかった。
 さっさと殺そうとロビンの首に手をのばす。けれどなぜか僕は殺すのを躊躇してしまった。

 こんなに楽しそうに歌を歌うことが許せない。
 ──僕だって、────。

 僕は結局ロビンを殺すことができないまま屋敷に戻る。結局そこしか行く宛がないのだから。

 今日も変わらず歌を歌っていると、見知らぬ気配を感じた。振り返るといかつい見た目の青年がいた。
 この人は、きっと人間じゃないな。僕はそう確信して、にっこりと笑う。

「こんばんは。お兄さん」
「……」
「無視? まあ、いいや」

 黙ったままでいるお兄さんを無視して僕は窓辺に座る。

「聞いてたよね、ひっどい歌でしょ。こんな歌、歌いたかったわけじゃないのに」
「……」
「どーせ僕もあいつみたいに空に還るんだ。だから最後に僕とお話しよ」

 相変わらず反応のないお兄さんに逆に安心感を覚える。僕は再び口を開く。

「僕ね、歌いたくてヴァンパイアになったの。だけどなんで歌いたかったのかもうわからなくなっちゃった」
「お前、」
「お兄さん、あんまし驚いてないってことは、お兄さんもお仲間なのかな。まあ、いいや」

 僕は話を続ける。

「歌いたいのに昔みたいに歌えないんだ。成長しないからボーイソプラノだって出るのに」

 一度吐き出したらもう止まらなかった。今まで抱え込んでいたものがボロボロと零れ落ちる。

 僕はきっと僕を僕としてみてほしかったんだ。
 大好きなことを嫌いになりたくなかったんだ。

 だけど現実はどうだ。僕は人間をやめてうかつに人に会える状況じゃないし、歌だって満足に歌えない。

「……もう、いやだ」